高齢の親が、自宅の維持管理がキツくなってきたとか、伴侶を亡くして独居になったなどをきっかけに突然、相続の問題や親の住まいをどうするか、頭を痛める問題に直面するケースも多いのではないでしょうか。親の世代は現預金や不動産などの財産は「活用」する観点よりも貯めて「持ち続ける」ことが大事だったりしました。土地が固定資産税を負担するだけのマイナス財産になっていたり、ムダとムリが占めている場合もあるようです。相続対策は「不動産投資」の活用場面が大きいステージです。下記で不動産の贈与と贈与税の要点を概観してみます。
「不動産投資」と相続
相続対策に特化して活躍するファイナンシャル・プランナー(FP)の方の講演を聞いたことがあります。
日本はマネーリテラシー(お金をコントロールするための理解力。お金を増やす知識や管理能力のこと)の教育が十分でなく、豊かな社会でありながら相続について真剣に考えるタイミングが親がとても高齢になるまでなかったり、真剣に考える機会がもてなかったりするということでした。
とくに親の世代は「お金」に対する価値観も、とにかく大事に貯め込んで維持するということに執着しがちで前向きに財産を活用していこうと検討を進めることにも消極的であるようです。
そのため当然、そのFPの方に相談を依頼する家族も、受贈者となる子どもが「親にこんな財産があっても持て余している様子」というところからスタートすることが多いそうです。
そんな普遍的なケースの1つ。夫を亡くして郊外の自宅(一軒家)に一人暮らしになったAさん(70代女性)。
夫の財産はAさんが相続して、配偶者控除により相続税はかかりませんでした。ただ自宅の独り住まいが数年になると不安になってきて、買い物や夏場の庭の手入れがおっくうになったことを子息に打ち明けました。駅に近く買い物が便利になるマンションへの住み替えを決断しました。自宅を売却した資金でマンションを購入したことで節税にもなり、現預金が圧縮されたことで子息の方もひとまずAさんからの相続税を気にする必要は後退しました。次はいつか子息に相続されるマンションなど、Aさんの相続対策に取りかかります。
こうした実例からもピックアップできる相続対策を考え始めるべきポイントに、そのFPの方が挙げていたのは下記でした。
[親の自宅]
売却するなら節税観点から親が元気なうちに進める
空き家=役割を終えた不動産は売却して賃貸不動産を購入するなど「活用」する
[親の土地]
不動産を持ち続けることがリスクになることもあり、活用なしで収益がない土地はマイナス財産になる
不動産は持ち続けるのではなく必要なものに買い替える
不動産は効率よい持ち方が大切で評価軸は量よりも質になる
[親の現預金]
銀行に預けておくことがゴールではない
親の金融資産の全体、相続税がかかるか否かを早めに確認して相続対策のプランをつくる
低金利のいま、現預金はまとまった金額を残す時代ではなく、「活用」する時代
[親からの贈与]
現金で贈与するよりは不動産にしてからのほうが効果的
不動産で贈与する場合は賃貸事業をしたのちとする
2500万円までは相続時精算課税制度を利用したほうが得策
贈与税と課税対象について
贈与が成立した際にかかる税金が贈与税になります。
贈与とは「贈与者(与える側)が生存している段階で、受贈者(もらう側)へ無償で譲渡することをお互いに合意すること」で成立します。この合意を基に、受け取った受贈者に課税されるのが贈与税です。
贈与税の課税対象者は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与財産の合計額に対し、翌年2月1日から3月15日までの期間に管轄の税務署に贈与税の申告および納税を行う義務が発生します。
贈与税の申告は、不動産などの財産を贈られた受贈者が行います。申告手続きは税理士に依頼することもできます。
(1)贈与税の計算方法
贈与税の計算方法は、「贈与財産の総額」から「基礎控除額110万円」を引いた額に「税率」を乗じ、さらに「控除額」を差し引いて算出します。
基礎控除後の課税価格が200万円以下であれば、税率10%(控除額0)です。
以後、課税価格と税率、控除額は段階的に上昇していきます(下記を参照)。贈与の額が大きくなれば、その分贈与税率も高くなっていく仕組みです。
控除額は受贈者との間柄や贈与財産を使う目的、種類によって特例が設けられていますが、原則は「年間110万円の基礎控除」が基準となります。
年間に110万円以上のやりとり(贈与)があれば贈与税がかかると覚えます。
【一般贈与財産の税率(一般税率)の速算表】
基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% ‐
200万円超~300万円以下 15% 10万円
300万円超~400万円以下 20% 25万円
400万円超~600万円以下 30% 65万円
600万円超~1000万円以下 40% 125万円
1000万円超~1500万円以下 45% 175万円
1500万円超~3000万円以下 50% 250万円
3000万円超~ 55% 400万円
贈与税の計算には一部に例外があり【特例贈与財産の税率】を使って課税価格を算出するケースがあります(下記を参照)。
特例贈与財産は、2015年以降に贈与を受けた年の1月1日の時点で成人(20歳以上)となっている直系卑属(子どもや孫など)へ贈与された財産です。
【特例贈与財産の税率(特例税率)の速算表】
基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% ‐
200万円超~400万円以下 15% 10万円
400万円超~600万円以下 20% 30万円
600万円超~1000万円以下 30% 90万円
1000万円超~1500万円以下 40% 190万円
1500万円超~3000万円以下 45% 265万円
3000万円超~4500万円以下 50% 415万円
4500万円超~ 55% 640万円
(2)不動産を譲った場合にかかる税金
年間に110万円以上のやりとり(贈与)があれば贈与税がかかると覚えました。
また現預金だけでなく土地・建物といった不動産を贈与するときも贈与税が課税されます。
不動産の名義が変わる際に課される「登録免許税」や「不動産取得税」も贈与の際に必要になります。
不動産の贈与税の計算方法
ポイントとして、まず建物と土地では課税価格の算出方法が異なります。
(1)不動産の価格
[建物は不動産の「固定資産評価額」が基本]
建物の贈与税額を計算するときには、その年の「固定資産評価額」を基準にします。
「固定資産評価額」=固定資産税評価額は各自治体が個別に決定するもので、土地や家屋などの評価基準を定義した固定資産評価基準に基づき、東京23区の各区および各市町村の自治体担当者が、ひとつずつ確認して決めています。相続税評価額は国税庁が毎年7月1日に公表しています。なお、この評価額は、固定資産税評価額の場合3年ごとに、相続税評価額(路線価)の場合は1年ごとに評価替えが行われます。
[土地は「路線価」が基本]
土地の贈与税額を計算するときには、贈与する土地に隣接している道路の価格(路線価)に、土地面積を乗じて算出します。
「路線価」=路線価は国税庁が毎年7月頃に公表するもので、インターネットで無料閲覧することができます。
(2)不動産価格の把握
贈与税を計算するときに大切なことは贈与する財産の課税価格を算出することです。
贈与する不動産の評価額を出すことは、「固定資産評価額」、「路線価」を使うことが基本でご自身で調べることもできますが、実際は難しく通常は不動産鑑定士や税理士に依頼して評価額を査定してもらうと思うのですが、時間も費用もかかってきます。
そこで予備的に使えるものにインターネットを使った実勢価格から課税価格の目安を知る方法です。
ポータルサイトや検索機能で「不動産実勢価格調べる」などを検索すると、国土交通省の「土地総合情報システム」にアクセスして実勢価格を知る方法を解説するサイトも見つかります。どうやって調べるか、記載内容を手本に「土地総合情報システム」のデータを活用することができます。
ここで得られるのは不動産が実際に売買されるときの不動産実勢価格になるので、実勢価格を出してから0.7(70%)をかければ、おおよその評価額を出すことができます。
贈与対策としての不動産「活用」ヒント
年間の基礎控除内(控除額110万円)で毎年コツコツ贈与すれば、長い目で見れば非課税で多額の贈与も可能ですが、資金贈与の特例やタイミングを計り、受贈者が贈与を受けたいときに適切な贈与方法を優先して考えることが現実的になります。
贈与税の注意点として非課税枠を利用して年間110万円以下の暦年贈与を行う場合、後になって税務署から定期贈与だとみなされないよう贈与の都度、必ず贈与契約書を締結するようにします。また、暦年贈与を行った事実を明確にするためにも財産は現金で渡すのではなく銀行振込で行い、通帳に記録を残しておきます。
夫婦間または子どもへの贈与とマイホーム購入を一緒に検討すると、効率的な贈与対策になります。
(1)夫婦間で不動産贈与したときの配偶者控除(おしどり贈与)の利用
配偶者に居住用の不動産を贈与する場合、基礎控除110万円とは別に、最大で2000万円の配偶者控除(通称:おしどり贈与)が受けられます。評価額が2110万円より低ければ、贈与税は0円になります。
(2)住宅取得等資金贈与の特例を利用
子どもが結婚して独立し、マイホームを購入する際には、「住宅取得等資金贈与」の特例を利用しましょう。
親子間または祖父母から孫に対して住宅取得にかかる資金を贈与する場合には、贈与税の基礎控除110万円に加え、最大1500万円(2020年4月1日以後に新築等の契約締結、消費税10%の場合)までの贈与にかかる贈与税が非課税になります。
ただし、建物の床面積や建築条件、受贈者の年齢、贈与年の所得に条件があります。非課税枠の見直しを繰り返している特例なので、贈与する際は税理士など専門家に相談してみるのがよいと思います。
(3)現預金より不動産で贈与したほうが有利
上記で見てきたように不動産の贈与にかかる課税価格は実勢価格ではなく評価額(不動産実勢価格×0.7=評価額)になるため、現預金や生命保険、有価証券など金融資産で残すよりも、財産を残すのであれば不動産のほうが贈与対策としては効果的となります。
また、マンションやテナントの一室を購入し、その区分所有権を運用資産として贈与する方法もあります。子孫世代の長い将来への備えとして、消費して終わる現預金ではなく、節税効果も図りながら収益不動産を贈与するのもよいアイデアになります。
不動産を贈与するときの手続きの流れ
(1)贈与契約書の作成
贈与は口頭でも成立しますが、契約書を残しておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。また、名義変更登記の際にも必要になってきます。
贈与契約書の内容は簡潔なもので構わないそうです。記載事項は、日付、不動産を贈与する人(贈与者)と贈与を受ける人(受贈者)の住所と氏名、それぞれの署名捺印、お互いの合意のもとに贈与を行う旨、不動産を特定できる情報などになります。
※本人が作成したことを証明するために、日付と署名は手書きで記入します。
贈与契約書は、正確に書く必要があります。住所は住民票のとおりに、不動産の情報は登記地番や地目、面積などを登記簿のとおりに記載します。契約書は人数分作成し、それぞれが保管します。
作成した贈与契約書には、それぞれ200円の収入印紙を貼付します。通常、不動産の売買やローン契約では金額に応じた印紙税を納めますが、贈与の場合は価格の記載がないものとして、印紙税は一律200円になります。
(2)法務局での名義変更登記
贈与契約書は、贈与者と受贈者の二者間で交わします。不動産の所有者が変わったことを明らかにするために、登記をする必要があります。つまり名義変更です。名義変更登記で新たな所有者を登記簿に記載することで他に相続人となる予定の人や、土地の売買に関係する第三者などに対して、所有権を主張できます。
名義変更登記は、最寄りの法務局で行います。また、郵送やインターネットでもできます。
必要書類は、贈与契約書、登記識別情報、贈与者の印鑑証明書、受贈者の住民票の写し、委任状です。委任状は、贈与者と受贈者が共同で行う場合には必要ありません。登記識別情報は、昔でいう権利証のことで無事に登記が終われば、新しいものが発行されます。
登記の際には、登録免許税を払わなければなりません。税率は、土地・建物とも固定資産税評価額の2%です。現金か収入印紙を用意しましょう。
契約書の作成から登記までは自分たちで行うこともできますが、司法書士に代理してもらうと正確かつスムーズです。手数料は2万円から8万円くらいが目安です。
(3)贈与税の申告・納税を忘れない
贈与税の申告は、贈与した日付の翌年3月15日までに行います。
贈与には、暦年贈与と相続時精算課税の2種類あり、特に何もしなければ暦年贈与を選択したことになります。
年間に受け取った贈与の合計額が、基礎控除額の110万円を超えた場合は忘れずに申告が必要です。
もう一方の相続時精算課税は、まず贈与税を納め、贈与者が亡くなったときに相続税として計算しなおす方法です。合計2500万円までの贈与には贈与税の納税義務はありませんが、申告書と相続時精算課税選択届出書を税務署に提出する必要があります。
不動産取得税の納税は、登記をして数ヵ月後、都道府県税事務所から納付書が届きます。税率は原則として固定資産税評価額の4%ですが、2021年まで3%としたり、宅地の評価額を1/2としたりする特例があります。
不動産の贈与には、贈与契約書や登記、贈与税の申告など、慣れない手続きが伴います。実際に手続きを進めるときには司法書士や税理士に依頼すると確実かつスムーズです。不動産会社に相談すれば、提携するプロを紹介してくれると思います。